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【保存版】森林資源使用量を減らすための紙と印刷チェックリスト

弊社・伸和しんわ印刷では69年間、多くのお客様の印刷物をお任せいただくなかで、発信者の想いを届け、受け取り手の心に残るツールとして、「紙で伝えること」の魅力を強く実感してきました。デジタル化が進む近年ですが、印刷物に対するこだわりや愛情を、私たちは今も変わらず持ち続けています。

一方で、すぐに捨てられてしまう印刷物や、少し間違えただけで廃棄されてしまう印刷物、使われもしない印刷物というものがあるのも事実です。だからこそ、伸和しんわ印刷では「想いを伝える手段として印刷が最適ではない」と思う場合には、印刷しないことを提案することもあります。そして印刷するからには、紙だからこその価値をしっかりと問い、使用する森林資源の量をなるべく減らす方法を提案するようにしています。

気候変動の問題において既存の森林を守ることはとても重要になってきます。その点に少しでも貢献できるように、森林資源の使用量を減らすという観点で考えた時、「紙の選び方」「印刷の仕様の決め方」「印刷の手法の決め方」などについて普段私たちが気にしているポイントがあるのです。

この記事では、69年間、紙と印刷に携わり続けてきた伸和しんわ印刷の「森林資源の使用量を減らすための紙と印刷チェックリスト」をお伝えします!

目次

#01. 紙の選び方
□再生紙で古紙パルプの比率が高いものを選ぶ
□自社内での利用に留められるなど、廃棄まで管理できる場合は新素材も可
□中質紙を利用する
□FSC認証紙を選ぶ
#02.紙の仕様
□薄い紙を選ぶ
□小さいサイズにする
□標準的な規格にする
□中綴じにする
□ページ数を8ページ、16ページ単位にする
□表紙と本文を同じ素材にする

□表面加工はしない
#03. 印刷の手法
□数が少ない場合はオンデマンド印刷
□UV印刷よりも植物性のインキでのオフセット印刷

#01. 紙の選び方

紙の決め方について気にするポイントはこの3つ。まず、優先順位をつけるうえで考慮に入れるポイントは以下の3つです。

紙の決め方の背景

  1. 木の利用量を減らすこと。
  2. 再生紙の原料となる古紙パルプに悪影響を及ぼさないこと。
  3. 責任のある方法で取得していること。

紙の原料となるパルプの種類は、木材から取れるパルプの「化学パルプ」、「機械パルプ」、紙から取れる「古紙パルプ」、「木材以外のパルプ」(新素材など)の4種類があります。※1

木を使わないのが、古紙パルプ、木材以外のパルプです。

木材が原料となるパルプの中だと、機械パルプは木材から取れるパルプの量が木材の90%程度、化学パルプが50%程度と言われており、同じ量の木から換算すると、化学パルプよりも機械パルプの方が多くの紙を作ることができます。

現状印刷用の紙で一般的に多く使われているのは「化学パルプ」ですが、それぞれにメリット・デメリットはあるので他の記事(※1)も参考にしていただければと思います。簡単にいえば、綺麗で長持ちするのが化学パルプ、(同量の木で換算した時に)たくさん取れるのが機械パルプという特徴があります。

実際の紙の種類でいうと、上質紙、コート紙、マットコート紙といったネット印刷でもよく使われている紙は「化学パルプ」です。化学パルプと機械パルプが混ざったもので「中質紙」という紙があり、そちらは主に書籍や雑誌の本文などでよく使われています。(※2)

この点を踏まえ、「紙の選び方」についてそれぞれのポイントをご説明します!

□再生紙で古紙パルプの比率が高いものを選ぶ

再生紙は古紙パルプだけはなく、化学パルプなどを混ぜて作られている事が多いです。単純に再生紙といっても、古紙パルプは10%程度しか含まれていないといったものもあります。なので、再生紙の中でも古紙パルプの比率が高いものを確認して選ぶことで、森林資源の利用をより減らしているということがいえます。

例えば、通常のチラシなどに利用する紙では、王子製紙の「OKプリンス上質エコグリーン」は古紙パルプ70%以上、日本製紙「リサイクルSマットG80」は古紙パルプ80%以上、大王製紙の「ユトリログリーン70」は古紙パルプ70%以上が含まれています。

また、箱などに利用する「板紙(いたがみ)」といわれる種類の紙は、元々古紙パルプの比率が高いです。裏面や破るとグレーの紙であるのを見たことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、実は表面だけ化学パルプを用いた紙で、残りは古紙パルプの紙になっています。

板紙の中では「古紙パルプ100%」といった紙も多くありますので、箱などのパッケージ、カードなど作られる場合には、そういった紙を選ぶのもおすすめです。

例えば、竹尾の「GAクラフトボード-FS」は古紙100%でFSC認証の紙になっています。

□自社内での利用に留められるなど、廃棄まで管理できる場合は新素材も可

木材以外のパルプ(新素材など)を使った紙について、それを使えば木の利用量が減るからそれを進んで使えばいいと思われるかもしれません。そういう面はもちろんあるのですが、紙のライフサイクル全体で見た時にも良いかどうかを考えたいと思っています。

紙は古くからリサイクルの仕組みができており、そのサイクルを適切にまわして高品質な古紙パルプを増やすことがとても重要になっています。品質の高い再生紙をつくるために、同じ紙でも印刷工場から出る断裁された印刷されていない紙、黒一色だけ印刷された紙、ダンボール、雑誌など細かく紙を分類し、製紙工場で古紙パルプに使用できない紙を取り除く必要があります。その点でいうと、木材以外のパルプについては、古紙パルプとして利用するには適さないものもあります(※3)。そういったものが紙のライフサイクルの中に入らないようにすることは非常に重要です。しかし、エンドユーザーにとってはどちらもただの紙にしか見えないため、その点をエンドユーザーが認識して「資源ごみとして出さずに燃やすゴミとして出す」という判断をするのは難しいのではないでしょうか。

そう考えると、新素材を使うのに適しているのは提供する企業が自社内の利用で管理できて、廃棄までコントロールできる場合なのではないかと考えています。 

例えば、選挙の投票用紙は実は木材パルプではなく、ユポというプラスチックが原料となっています。書き心地もよいですし、折ってもすぐ広がるという特性から、集計にも便利といった機能的なメリットもあります。そして、投票用紙は外に出るわけでもなく、各自治体が管理できるので、そちらが紙のリサイクルに回るということはありません。このようなケースで新素材を利用していくというのは、森林資源の観点からみても望ましいのです。

□中質紙を利用する

先述の通り木材からとるパルプの中にも機械パルプと化学パルプがあり、機械パルプの方が歩留りがよい(同量の木からたくさん取ることができる)という観点から、機械パルプの方が木材の利用量が少なくて済みます(※2)。そして、統計から判断する限りにおいて(※4)、日本での中質紙の利用量は少ないです。明確な理由はまだ調査に至っていませんが、上質と中質と言われると中質は選びづらいという心理や考えが働いているのではないかと思うのですが、皆さんはいかがでしょうか。「上質」「中質」と名前がついてはいても、定義としては少しでも機械パルプが含まれていたら「中質」とされているのみで、実際のところ白さなど見た目にはわからないものも多くあります。機械パルプの特徴として、光にあたると変色するという特徴があり、長期に保存する場合には向かないこともありますが、長期保存が必要無い場合には中質紙を利用するという選択もよいのではないでしょうか。

□FSC認証紙を選ぶ

FSC認証紙とは、「責任のある森林利用ができている場合にのみ取得することができる」認証です。そのような認証を取れている紙を利用することは、望ましくない森林伐採をされていない紙の利用に繋がります。

一方で、FSC認証紙の利用を最優先すると、再生紙を含むと古紙パルプの比率が100%のものでないとFSC認証にならないため、再生紙を利用することが困難になる点と、FSC認証紙を使うのはとても素晴らしい方法ではあるのですが、Appleの Apple’s Paper and Packaging Strategyの以下の1文のような視点ももっていたいと思っています。

Concerned that our responsible sourcing efforts might simply strain a limited global supply of product, Apple sought to protect and expand the number of responsibly or sustainably managed working forests to cover all its product packaging needs.

Appleは、責任ある調達の取り組みが、限られた世界規模の製品供給に負担をかけるだけになってしまうことを懸念し、製品パッケージのすべてのニーズをカバーできるよう、責任を持って持続可能な管理が行われている森林の保護と拡大に努めました。

Apple’s Paper and Packaging Strategy

つまり、自社だけが責任ある調達をしていればいいという世界でもないのではないかという視点です。

#02.紙の仕様

続いて、印刷物の仕様をどのように設計するかのポイントはこちらです。

優先順位をつけるうえで考慮に入れたポイントは以下の3つです。

  1. パルプ・紙の使用量を減らすこと
  2. 紙を無駄にしないこと
  3. リサイクルに支障がある仕様にしないこと

「1.パルプ・紙の使用量を減らすこと」についてですが、紙の厚さは110kg、90kg…と重さで

表されます。厚い紙はパルプをその分多く使うということだから重い、逆にいうと、薄ければ木の利用量は減らせると考えられます。これはサイズに関しても同様です(※6)。最終的に出来あがるものを軽くするということが資源の利用を減らすことに繋がります。そしてそれは配送の時にも影響してきます。軽い方が、運ぶ際に必要なエネルギーも減ってくるからです。

「2.紙を無駄にしないこと」については、印刷をするときの仕組みが影響してきます。まず印

刷する際には大きな紙に何ページ分もまとめて印刷します。そのことから、作成するものの大きさやページ数を一番効率的なものにするのが望ましいです。そして、次章の印刷手法にも関わってきますが、印刷には「予備紙」といわれる実際に必要な量以上に必要な紙があります。オフセット印刷という最も一般的な印刷手法をする場合に、色がしっかり出るまで試し印刷をするための紙(刷り出し損紙)、印刷の途中でずれていないか、色がしっかり出ているかを確認するための紙(刷り損紙)といったものが必要になるのです。両面カラーで印刷する場合には例え100枚しか必要なかったとしても、400〜500枚程度の予備紙(※印刷するサイズでこの枚数なので、例えばA0サイズで印刷した場合A4換算では3,200〜4,000枚分)が必要になり、印刷枚数が増えてきたとしても必要な印刷枚数の5〜10%程度の予備紙が必要といわれています。

「3.リサイクルに支障がある仕様にしないこと」は、紙の選び方の章でもお伝えしたとおり、リサイクルに支障があるものは避けたほうが望ましいという考え方です。印刷の仕様についてもリサイクルに支障があるものがあるのですが、これについては日本印刷産業連合会が定めた、「印刷業界及び製紙・古紙関連・インキ・印刷機械業界による規格」で、印刷情報用紙への印刷時に使用される紙、インキ、加工材などの印刷物資材の古紙リサイクル適性を4段階にランク付けした「リサイクル対応型印刷物(※7)」が参考になります。

これらの点を踏まえて、チェックリストそれぞれのポイントをご説明します。

□薄い紙を選ぶ
□小さいサイズにする

これら2つについては先程も説明しましたとおり、薄くて小さいものであれば重さが軽くなる、すなわち利用するパルプの量、木の量が減るということに繋がります。もちろん利用する観点での厚さや大きさの検討は大切ですが、なんとなく決めるのではなく、こういった点も踏まえてこだわりをもって決めていただくことをおすすめします。

□標準的な規格にする

こちらは大きさの規格についてです。紙の大きさにはA4、B5といった規格サイズがあります。先程お伝えしたとおり、印刷する場合は大きな紙に配置して、まとめて印刷し、あとから必要な大きさに切るなどの加工をします。印刷する紙の大きさにはいくつか種類があり、A4、A5といったAがつく形の大きさのものと、B4、B5といったBがつく形のものをつくるのに適切な紙がそれぞれあります。

そのため、規格通りのA4サイズであれば1枚の大きな紙で効率的に8枚分まとめて印刷できるところを、少しA4より大きいサイズにしたいとしたときに、4枚分しかまとめて印刷できないということが起こります。その場合同じ枚数を印刷するのに必要な紙は2倍になってしまいます。

この点も踏まえてその大きさである必要があるのか、少し大きいサイズを作成する場合には印刷会社さんに聞いていただいて、このサイズにすることで紙を無駄にすることがないかを聞いていただくとよいと思います。

□中綴じにする
□ページ数を8ページ、16ページ単位にする
□表紙と本文を同じ素材にする

こちらは冊子を作成する場合の「綴じ方」についてです。冊子の綴じ方には一般的なものとして中綴じと無線綴じという方法があります。中綴じはホッチキスで止めるもの、無線綴じはホッチキスなどを使わず、表紙でくるんで糊で接着するものです。

一般的に無線綴じの場合は本文と表紙は別で印刷をします。そのため先程書いた印刷の予備という観点でいうと、表紙と本文でそれぞれ400〜500枚ずつ予備紙が必要といったことになります。中綴じで本文と表紙が同じ素材で、16ページであれば表紙はカラーで本文は白黒という方法でなければ、一回の印刷で作成することができるため、表紙を別で印刷しないでいい分、少ない紙で済みます。ただし、中綴じの場合も表紙と本文を別の紙にする場合には一緒に印刷することができず、無線綴じと同じことになるため、本文と表紙は同じ紙であることが望ましいです。

また、一般的に多くつくられているA4サイズの冊子の場合、1枚の大きい紙で16ページ分を印刷することができます。そのため、20ページにしたいという場合には別で追加で印刷をしないといけなくなるため、先程と同様に予備の紙が余計に必要となります。なので、16ページ単位(ものによっては8ページ単位)よりも少し多いページ数にしたいといった場合には、本当にそのページにする必要があるのかも検討いただければと思います。

(なお、こちらについては印刷会社が印刷する機械によっても変わってくる部分があるため、作成するものに応じて、印刷会社さんに確認いただく方が確実です。)

□表面加工はしない

先述のリサイクル対応型印刷物において、紙のリサイクルには阻害となるものについては避けることをおすすめいたします。例えば表面加工についてPP貼りをすることでリサイクルしづらくなってしまうため、リサイクルの観点では避けることが望ましいです。

また他にも、厳密な色の表現が必要なケースや、特色、全面塗りつぶされたのデザインの印刷は難易度があがる分、予備を多く必要とされる印刷会社さんは多いです。

#03. 印刷の手法

最後に印刷手法についてのポイントはこちらです。

優先順位をつけるうえで考慮に入れたポイントは以下の2つです。

  1. 紙を無駄にしないこと
  2. リサイクルに支障がない方法で印刷すること

これらの点を踏まえてそれぞれのポイントをご説明します。

□数が少ない場合はオンデマンド印刷

まず印刷の手法としてよく使われる方法として、「オンデマンド印刷(デジタル印刷)」と「オフセット印刷」という方法があります。オンデマンド印刷はイメージとしてはオフィスのプリンターでの印刷です。印刷時に物理的な版が必要なわけではなく、そのまま印刷することができます。オフセット印刷は物理的な版にインキを乗せて印刷する方法です。少部数の時はオンデマンド印刷の方がコスト的にもよいので利用されることが多いですが、オフセット印刷の方が綺麗にイメージどおりに仕上がるために少部数でもオフセット印刷を利用されることがあります。

こちらに関して先述したとおり、オフセット印刷に関しては100枚など少ない部数の場合でも両面カラーであれば400〜500枚(A4サイズに換算すると3,200〜4,000枚となることもあります。)の予備の紙が必要になります。そのことから、少ない部数の場合はオンデマンド印刷を利用する方が望ましいです。一方で先述の日本印刷産業連合会が定めた「リサイクル適正ランク」では通常のトナーは紙のリサイクルに阻害があるBランクとなっているため、リサイクルの観点ではオフセット印刷の方が望ましいです。コスト的にもある一定の部数以上の場合はオフセット印刷の方が安くなってくるため、部数が多い場合にはオフセット印刷で問題ないと考えています。

□UV印刷よりも植物性のインキでのオフセット印刷

オフセット印刷の種類の中にUV印刷という手法があります。こちらの方法は速乾性や通常の有機揮発物系の溶剤を含まないなど環境面でのよい点はありますが、先述のリサイクル対応型印刷物にあるように、UVインキはリサイクル適正がBとなっています。リサイクルに影響がある印刷手法はできる限り避けた方が望ましいです。

最後に

森林資源の利用を減らす観点で考えた時のチェックリストを紙、仕様、印刷手法それぞれの観点からお伝えさせていただきました。

伸和しんわ印刷では、こうした印刷物を印刷する手前からのご相談も承っています。環境に配慮した印刷を目指して、皆様が印刷物を作成する際の参考になれば幸いです。

参考資料

※1パルプの種類と環境に対しての影響

※2上質紙・中質紙などの種類と木の利用量について

※3こちらのファンシーペーパーチェックリストの中でランクがAとなっているものに関しては混ざっていても問題無いといわれています。

※4日本は白い紙が好きすぎる?世界の中質紙利用率比較

※5 Apple’s Paper and Packaging Strategy

※6最も簡単に紙の利用量を減らす方法と注意点

※7リサイクル対応型印刷物 日本印刷産業連合会

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